【キュビスム】あらゆる対象を幾何学的な立体感で表現するデコボコ絵画

アクリル絵の具で描いた作品

 


【薔薇】Ver.2.0

 

 

前回の記事はこちら↓

【フォーヴィスム】自由で感覚的な激しい色彩で表現するカラフル絵画

 

こんにちは!絵描きの川原です。

 

今回はキュビスムについてお話していきます。

キュビスムを直訳すると立体主義。
一つの対象を同じ視点で描くのではなく多用な角度、複数の視点から見た物の形を一つの画面に集約し表現しようとしました。

自然の形の写生ではなく、幾何学的な形の自由な組み合わせによる絵画の『構成』
セザンヌに始まる形の革命は、キュビスムに結実します。

それでは解説していきます。

 

キュビスムとは

 

1908年の『秋季展』でアンリ・マティスジョルジュ・ブラックの作品を
『立方体(キューブ)だらけ』と評し、
別の評論家も同意見を述べたことからついた呼び名です。


マティスフォーヴィスムで有名な画家でしたね!

 

フォーヴィスムが『色彩の革命』なら、キュビスムは『形の革命』でした。
具体的なものを描きながらも、ルネサンス以来の伝統である単一視点の遠近法を脱却します。

 

対象を幾何学的な形に分解して複数の視点からとらえ、
切り子細工のようにデコボコに組み合わせて立体的に再構築します。

 

ピカソが描いた正面と横顔を組み合わせた顔も、一見するとでたらめのようで実は理論的に形を構成しています。
フォーヴィスムの感覚的な色彩表現とは対照的です。

 

自然を球や円錐としてとらえたセザンヌと、パリ万博で見たアフリカ彫刻や
アンリ・ルソーの絵画の素朴さに刺激を受けたピカソ【アヴィニョンの娘たち】を発表した1907年が、キュビスムの出発点でした。

 

そこからブラックと二人で『分析的キュビスム』の手法を確立し、
スペイン出身のグリスやフランスのレジェロベール・ドローネーらが続きました。

 

ピカソとブラックは1912年頃から、新聞の切り抜きや端布を絵に張り付ける
『コラージュ手法』を用いた『総合的キュビスム』を展開しまいた。

 

絵画と既製物の境界を取り払って、ダダイスムシュルレアリスムに影響を与えます。
レジェは構成主義的な機械美を描き、ドローネーは具体的な対象を離れて抽象表現に向かうなど、現代芸術への大きな一歩となりました。

 

 

 

キュビスムの画家たち

 

ピカソ


パブロ・ルイス・ピカソ
1881年10月25日‐1973年4月8日

スペインの画家。
スペインのマラガで生まれ、フランスで制作活動をした画家です。

 

ピカソの名前を知らない方はほとんどいないのではないでしょうか?
最も有名な画家といえます。

 

ブラックと共にキュビスムの創始者で絵画の他に版画、彫刻と幅広く芸術作品を残しました。
生涯に制作した作品数は1万3500点の油絵と素描10万点の版画3万4000点の挿絵300点の彫刻と陶器を制作といわれ、ギネスにも記録されています。

 

幼い頃から絵を描く才能を発揮し、8歳で初めて油彩を描いています。
10代からバルセロナやマドリードで美術の英才教育を受けていました。

 

当時のアカデミーでは、伝統的で古典的な美術を学ぶ傾向が強く
新しい芸術を学びたいと考えていたピカソは物足りなくなったそうです。

 

この時代の美術学校の授業も象徴主義の頃からあまり変わっていないようです。
ロセッティミレイハントも古典絵画ばかり教える学校の教育方針に不満を募らせていましたね。

 

1900年頃には個展を開くようになり、アール・ヌーヴォーの影響を受けた作品を展示するためパリとバルセロナを行き来していました。
この頃は風景画や人物画、静物画などの作品を多く残しています。

 

 

 


【アヴィニョンの娘たち】1907年 ニューヨーク近代美術館

 

 

 


【安楽椅子のオルガ】1917年  パリ ピカソ美術館

 

 

 

【ゲルニカ】1937年 スペイン ソフィア王妃芸術センター

 

 

 

 

ブラック

 


ジョルジュ・ブラック

1882年5月13日‐1963年8月31日

フランスの画家。彫刻家で版画家。
ピカソと共にキュビスムの創始者のひとりで、生涯に渡って絵を描き続けました。

 

装飾芸術職人だった父や祖父と同じく、幼少から装飾芸術を学びました。
パリで装飾芸術の修行後の1902年、22歳のブラックは美術学校に通い最初はアンリ・マティスの影響を受け、野獣派に近い作品を制作していました。

 

ブラックの初期の作品は印象派でしたが、1905年にフォーヴィスムの展示を見た後、
影響を受けて作風を変更しています。

 

1906年フォーヴィスムに参加し、その後ピカソと共にキュビスムの創始者のひとり
なりました。
ポール・セザンヌの多角的アイデアを基盤にしながらキュビスムを発展させました。

 

セザンヌに影響を受けたとはいえ、ブラックの作品はセザンヌとは全く異なるものでした。

 

1907年には、サロン・ド・アンデパダンでフォーヴィスムの作品を展示して成功します。
11月には詩人ギヨーム・アポリネールと共にピカソのアトリエを訪れ
【アヴィニョンの娘たち】を見て衝撃を受け、
同年に開催されたポール・セザンヌの回顧展でも影響を受けます。

 

ピカソは【アヴィニョンの娘たち】を完成させた後に、詩人アポリネールからの紹介がきっかけで、1909年からブラックはピカソと共同制作を始めました。

 

1908年から1912年までのブラックの作品は、幾何学的で多角的な視点から同時に対象を
見るという要素を表現した作品でした。

 

 


【メトロノームのある静物】1909年

 

 

 


【ギターを持つ男】1910年

 

 

 


【ギターを弾く女】1913年 パリ国立近代美術館

 

 

 

グリス


フアン・グリス

1887年3月23日‐1927年5月11日

本名ホセ・ビクトリアーの・ゴンサレス=ペレス
スペインに生まれ、フランスのパリで活動した画家。

 

ピカソ、ブラックによって確立されたキュビスムに少し遅れて参加したグリスは
『キュビスム第3の創始者』と呼ばれています。

 

ギターやマンドリンなど部屋にある静物を新たに解釈したグリスの静物画は、
ピカソやブラックのモノクロームが大半を占める作品と違い、
カラフルな色彩で描かれているのが特徴です。

 

スペインのマドリード出身で美術を学び、1906年にパリに出ます。
ピカソとブラックのアトリエの近くに住み、
そこで大きな影響を受けキュビスム絵画の制作を始めます。

 

グリスの作品はピカソやブラックと比べると比較的明確な表現をしていて、
画面に何が描かれているのかわかりやすくなっています。

 

ピカソがキュビスムを離れた後も、グリスはキュピズムにとどまり
生涯キュピズムとして活動を続けました。

 

 


【ピカソの肖像画】1912年 シカゴ美術館

 

 

 


【コローの主題によるマンドリンを持つ婦人】1916年 バーゼル市立美術館

 

 

 


【画家の家の窓】1925年 ボルチモア美術館

 

 

 

レジェ


フェルナン・レジェ

1881年2月4日‐1955年8月17日

フランスの画家。
版画家、彫刻家であり、映画など幅広く作品を残しています。

 

1907年にパリのサロン・ドートンヌで開催されたセザンヌの回顧展
レジェは大きな影響を受けました。
この頃から当時、前衛美術運動であったキュビスムに参加します。

 

ただピカソやブラックがキュビスムを始めた時期より遅れて参加しています。

 

セザンヌの『自然を円錐、円筒、球と捉える』という言葉はレジェの画風に影響を及ぼし、
【森のヌード】など初期作品ではキュビスムから派生した形態の強い作風で、円筒形や円錐形で描かれています。

 

第一次世界大戦に従軍した際には、大戦中に見た兵器の美しさに影響され、
レジェの作品には人物と一緒に機械をモチーフとした作品が目立つようになります。

 

 


【パイプをくわえた兵士】1916年

 

 

 

【トランプ遊び】1917年

 

 

 


【鍵とモナ・リザ】1930年

 

 

 

ドローネー


ロベール・ドローネー

1885年4月12日‐1941年10月25日

フランスの画家。
抽象絵画の先駆者のひとりとして知られています。
妻のソニア・ドローネーも画家でした。

 

フランス人画家としては最も早い時期に完全な抽象画を描いた一人です。
18歳の頃から画家になることを決意し、アカデミーや芸術学校などの正規の教育は受けていなかったが、ゴーギャン、スーラ、セザンヌなどを研究し制作を始めました。

 

初期作品はスーラの新印象派の影響があり、1909年頃からキュビスムの芸術運動に加わり、
【エッフェル塔】サン・セヴラン寺院】などの連作を描き始めます。

 

ドローネーの表現方法もグリスのように画面が色彩豊かで、ピカソやブラックのように
モノトーンに近かった作風とは違い色彩表現が主な役割を果たしていました。

 

 


【自画像】1905年‐06年 フランス国立近代美術館

 

 

 


【サン・セヴラン寺院】1909年‐10 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

 

 

 

 


【エッフェル塔】1911年 シカゴ美術館

 

 

 

 

【パリ市】1910年‐12年 パリ市立近代美術館

 

 

 

まとめ

 

今回は【キュビスム】についてお話してきました。

 

キュビスムをまとめると

・対象を一度幾何学的な形に分解。
・多角的、複数の視点から捉える。
・切細工のように組み合わせて再構築した。

といった感じです。

 

キュビスムの作品を見てみると、捉え方がみんなバラバラで
同じ肖像画の絵でも正面を向いているように見えれば、
横顔に見えたり
見る人によって様々です。

今回はここまでにします。

 

次回は【ドイツ表現主義】についてお話していきます。

【ドイツ表現主義】画家の内面、心を描く対象に投影する『私小説的絵画』

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